#2 千家十職塗師 十三代 中村宗哲さん〈後編〉
“歴代から受け継いだものを 次世代へ伝える使命”
千家の流れを汲む茶の湯の道具を代々にわたり製作する千家十職の塗師(ぬし)十三代中村宗哲さん。2022年(令和4年)から京都府公立大学法人の理事となり、文化・地域交流について、また大学生の子供をもつ親としての目線でご尽力いただいています。 そんな中村さんに本にまつわる思い出や大切な1冊<前編>、ものづくりへの思い、人から人へと受け継ぐものの大切さ<後編>などをお話しいただきました。
千家十職塗師 十三代 中村宗哲(なかむら・そうてつ)
1965年(昭和40年)、父三代諏訪蘇山・母十二代中村宗哲の次女として京都に生まれる。
2006年家業である千家十職塗師 十三代中村宗哲を襲名。
代々の伝統を受け継いだ茶道具をはじめ、現代のくらしに合う漆器も多く手掛ける。
ー400年近くの歴史を継承する当主として、ものづくりに込める思いは?
私共の仕事は、三千家のお家元の道具、お茶事の道具など、自分の作品ではなく、人の使う茶道具を作らせていただいており、常に人のことを考え、人を想い、人とのつながりを大事にしながらものづくりをしています。当家では「利休形」という千利休が好んだ形を守り、再制作しています。お茶道具は時代ごとの流行も取り入れながら、新しい道具が生まれてきましたが、「利休形の棗を」と言われたら、当家で継承している昔と変わらない形で作ります。次に重要な仕事は、歴代の宗匠のお好みに合わせた新しいお道具。「〇〇好み」と言われるものをご要望に応じて作ります。お茶席では、お茶碗や釜、他の道具との調和も大切。一つだけが目立ちすぎてもだめなんです。道具を手に取り、拝見できるのもお茶の魅力のひとつ。蓋を開ける時の手触り、重さなども感じていただきたいですね。
ー伝統を守る一方で、新しい要素として取り入れていることは?
今は、お茶室だけでなく、マンション、ビルの一室、屋外にお茶室を設えてなど、いろんな場所でのお茶室があるので、それに見合うように考えています。例えば、お茶室は光の入り方も緻密に計算されていて、無地の黒の棗はとても形が美しく見えます。お茶室以外の場所でも、見え方を工夫しなくてはなりません。小間の茶室ではちょうどよい大きさの道具でも、広間となると小さく見えます。大きさは変えずに、見栄えのよい絵がついたもの、遠くから見てもわかりやすい文様などを施します。そして、ものづくりだけでなく、お茶の楽しみ方も。私は山歩きが好きで、よくお茶箱を持って行きます。昨年、立山へ行った際には、途中で湧水を汲み、山頂でお茶を点てて飲みました。そういう自由なお茶の楽しみ方ももっと広げて行きたいと思っています。
ーデジタル化が加速する中、人と人のつながりで大切にしていることは?
お茶でも、人と人でも、対面してのつながり、お互いに人のことを想うのが大切。そういう気持ちはデジタルだけでは伝わらないのではないでしょうか。メールやLNEは便利ですが、やっぱり会って、顔を見て、お話しするのが一番です。大学生のみなさんも、コロナ禍で学校に行けず、リモート授業を受けていた時期があったと思います。今は、学校に行けるようになり、子供がキャンパスで過ごす様子を見聞きしましたが、本当に楽しそうです。パソコンで作業しながら横の人と話す風景、カフェで友だちと談笑する風景、こういう場所が必要だと改めて実感しました。驚いたのは、対面の授業をしながら、チャットで質問するのだとか。手を挙げて質問するのは恥ずかしいけど、チャットなら好きなことを聞ける、そういうコミュニケーションが若い大学生にはマッチしているのでしょう。デジタルとリアルなつながりを融合して、よりよい関係を築けるといいですね。
ー人から人へと継承していくことの意味は?
歴代の受け継いできたものを、自分の代で終わらせてはいけないという思いが常にあります。だから私自身が祖父や両親にしてもらったこと、同じことを次の世代にしてあげたい。私は幼い頃から、母に、美術館や神社仏閣、お祭りなどへ連れて行ってもらい、さまざまな文化に触れる機会がありました。家では遊びながら、自由にものを作る体験をしました。気づけば子供にも同じことをしています。次の世代に何かを残すためには、やめてはいけないんです。仕事でも、行事でも、継続していく大切さを知ってもらいたい。やめてしまったら、継承し、発展させてきた知見も経験も途切れてしまい、復活できなくなります。工芸の世界でも、医療の世界でも、どんな世界でもそれは同じ。次世代へ伝える使命があると思います。