#4 京都府立医科大学附属図書館 令和5年度特別開催 講演会 「知られざる掲載誌~芥川龍之介 お伽噺にまつわる発見~」レポート

“100年の時を超え 奇跡の発見となった芥川作品”

2024年3月22日(金)、京都府立医科大学附属図書館ホールにて開催された京都府立医科大学附属図書館令和5年度特別開催講演会「知られざる掲載誌~芥川龍之介 お伽噺にまつわる発見~」。これまで未発表とされていた芥川龍之介のお伽噺が、京都府立医科大学附属図書館所蔵の医学雑誌『體性』で発見されました。発見にいたる経緯や、現在まで続く『體性』誌の魅力など、多数の参加者が熱心に聴講しました。講演会の模様をご紹介いたします。

<あいさつ>
池谷博 附属図書館長(京都府立医科大学・法医学教授)

開催にあたり、池谷博附属図書館長があいさつを述べました。開学から152年目となる京都府立医科大学、そして附属図書館には非常に貴重な図書や昔の医療機器など、今では絶対に手に入らないものも多数所蔵しています。しかしながら、その保存状態はなかなかままならず、危機的な状況と認識しているとも言います。
「コロナの影響もあり、厳しい大学の現状を改善しようと、2023年7月から附属図書館を中心とする〝広小路キャンパス活性化プロジェクト〟に取り組んでいます。ここ図書館ホールも、今後広く一般の方々にご利用いただきたいと考えており、今回もその企画のひとつです。学生たちの学びの環境整備、附属図書館の貴重な所蔵品の継承のためにも、ぜひご寄付などご支援をお願いいたします。また、このような企画をこれからも開催いたしますので、ぜひご来場ください」と支援を呼びかけました。

<講演>
京都府立医科大学の歴史
奥田司 名誉教授(京都府立医科大学・京都府保健医療対策監)

最初の講演は「京都府立医科大学の歴史」をテーマに、大学昇格100周年記念事業実行委員長、創立150周年記念事業委員、副学長在任時には「本学の歴史」授業も担当した奥田司名誉教授が登壇。大学の発祥は、戊辰戦争(1868~1869年)で傷痍軍人を治療する西洋医師の活躍に、西洋医学導入の機運が高まったことでした。京都では、蘭方医かつ京都府職員であった明石博高をキーパーソンに、参事(のちに知事)槇村正直、顧問・山本覚馬らが西洋病院の創設に奔走。財政難から、医師・薬舗、花街、一般人、仏教会からも寄附を集め、1872年(明治5年)に「療病院」として創立しました。1890年(明治23年)には、現在の図書館である「書籍室」が設置されています。1921年(大正10年)医科大学昇格、その2年後の1923年(大正12年)、医学雑誌『體性』に芥川龍之介のお伽噺が掲載されました。
「まさに民間の力で作られた病院であり、創設以来、今も変わらず地域の医療を支え、多くの医療人を輩出し続けています。『體性』に作品が掲載された大正12年には、本学は大学としての基盤を固め、図書館も整備していた。こうした歴史を検証してみると、掲載誌が見つかったのも、不思議なことではないと思っていただけるのではないでしょうか」と奥田名誉教授は語ります。当該の『體性』が出版された当時の本学のエピソードも交えた貴重な講演でした。

<講演>
芥川龍之介と「三つの指輪。お伽噺」
木口直子 研究員(田端文士村記念館)

続いて、東京の田端文士村記念館の木口直子研究員が登壇。これまで未定稿とされていたお伽噺を「令和の発見」へと導いた経緯を解説しました。芥川龍之介は、1923年(大正12年)に慶應義塾大学大講堂で開催された『女性改造』誌主催の講演会で、お伽噺「三つの指輪」の構想を語っています。のちにお伽噺は、『女性改造』誌に掲載予定でしたが、実際に掲載されたのは別の作品でした。講演会で語ったお伽噺はなぜ発表されなかったのか? 2023年(令和5年)、田端文士記念館が古書店から『講演速記録「三つの指輪」原稿』を入手します。ここに記載されている「三つの指輪」とこれまで『芥川龍之介全集』などで知られている「三つの指環」、「輪」と「環」の違いがカギとなり、性の健康医学財団ホームページで、同財団発行の機関誌『體性』に芥川龍之介が「三つの指輪 お伽噺」を書き下ろし、掲載されたことを発見。全国の図書館を調査したところ、掲載誌である『體性』第4巻第6號は医学系大学6館で所蔵されていることがわかりました。しかし、京都府立医科大学以外は、複数の号をまとめて製本された「合本」でした。京都府立医科大学図書館では第4號が揃っていないということで、合本されていなかったのです。
「現存する『體性』が少ない中で、発行当時のままの状態で所蔵されていたのは、ここ京都府立医科大学附属図書館だけ。奇跡的な発見、本当に貴重な資料です。1923年の講演会からちょうど100年後の2023年。100年の時を経て、なお知られざる作品の発掘がなされることに芥川研究の奥深さを実感し、新たな研究に広がることを期待しています。本日のお話をきっかけに、一つでも芥川作品に触れるきっかけとなっていただけたら幸いです」と締めくくりました。

<講演>
『體性』誌について
北村唯一 理事長(性の健康医学財団・東京大学名誉教授)

最後は、性の健康医学財団の北村唯一理事長が登壇。性の健康医学財団の前身である性病予防協会の創設者・土肥慶蔵、そして『體性』誌について講演しました。土肥慶蔵は、東京大学医学部皮膚科の初代教授。渡欧して皮膚科と泌尿器科を学び、日本における皮膚泌尿器科を創始しました。帰国後の日本では梅毒が流行しており、たくさんの診療をした経験から、1905年(明治38年)に日本花柳病予防協会を発足。当時、性病は「花柳病」と呼ばれていました。1921年(大正10年)に財団法人日本性病予防協会を発足する際、土肥慶蔵がドイツ語の「性の病気」を和訳した「性病」という言葉を編み出しました。同年、機関誌『體性』を創刊。月刊で1部40銭、「医師から見た性や性病」「性についての奇談逸話」「性病予防について」「伝説と神話」など多彩なジャンルの投稿を掲載する、非常にユニークな読み物でした。芥川龍之介のほか、田山花袋、坪内逍遥などの小説家、文芸評論家、学者、政治家、社会運動家など総勢45名の著名人、100名ほどの無名人が寄稿しています。芥川龍之介の作品は「愛は悩みにも燃ゆ(三つの指輪。お伽噺)」というタイトルで掲載。
「わずか3ページの短編ですが、残念なことに各ページに2~3か所の誤植があります。土肥慶蔵は多忙な中、自分で校正・訂正していたそうで、芥川の名前も龍之助(正しくは龍之介)になっています。芥川龍之介の投稿の経緯は不明です。交友関係も広かった土肥慶蔵が、知り合いなどを介して依頼したのではないかと思われます」と北村理事長。未だ残る謎に、今後の発見や研究が期待されます。

<同時開催企画展>

附属図書館1回特別展示コーナーにて「知られざる掲載誌~芥川龍之介 お伽噺にまつわる発見」開催。芥川龍之介のお伽噺掲載の『體性』第4巻第6號、講演速記録「三つの指輪原稿ほか、貴重な資料を展示しました。

SHARE
X
Facebook
Instagram