ビジョンと戦略からはじまる地域医療学のブレイクスルー

総合医療・地域医療学 四方 哲先生

 2021年に「ビジョンと戦略からはじまる地域医療学のブレイクスルー」(中外医学社)を上梓し、本学の図書館にも寄贈しました。2021年から9年間、三重県立病院長として経験したことをまとめ、医療者ではない方々にも理解できるように推敲を重ねたものです。 

 自治医科大学を卒業し京都府での9年間の義務年限も終盤に入った2000年のある日、山奥の小さな公立病院に勤務していたわたしは「総合診療」と「地域医療」という二つのコトバについて、それまで信じて疑わなかっただけで、実はさしたる考えがないだけではなく、手ごたえすらないことに気がつきました。これらは実態なのか概念なのか、つまり確実に存在する現象なのか単なるコトバなのかという命題です。このようなことを考えること自体、総合診療や地域医療そのものの存在に懐疑的になっていたことの証左かも知れません。

 2003年に不完全燃焼感がつきまとうまま義務年限を終えました。その後、2012年にご縁があって三重県で二回目の義務年限を自主的に課してみることになりました。三重の青山高原の麓で広大な星空をぼんやりと眺めているうちに「総合診療」「や「地域医療」という実体の存在証明は止めて、これらのコトバとその周辺との関係性を基に自分の頭の中で構築してゆくしかないのだ、と考えるようになりました。とはいえ、おなじような自問自答を毎日繰り返してみたところで何も構築できないまま月日は流れてゆきました。

 2020年、二回目の自主的義務年限として9年間を過ごした三重を去り京都に帰ることを決意しました。不思議なことに帰京を決意したその夜から、それまで乾ききっていたコップの底から水が溢れ出てくるかのように、忘れていた記憶がリアルな感情と共にとめどもなく甦り始めました。それを毎朝、かき集めながら言語化したものが本書です。拙著を読んだ識者からは「期待を裏切る医学書だ」、「医学書というよりは私小説だ」、「ソファで寝転んで読むのに丁度よい内容だ」、「こんなことを書いてしまって君、大丈夫か」というお褒めの言葉を頂いています。 地域医療とは単に田舎で医療をすることではないし、どこかの地域で医療をすることでもない、さらにいえば医療の一部でもない、という私の極論の真意がどこまで受容されるものなのか、まったく想像できません。読者から「そうそう、俺が言いたかったのはそういうことだ」という共感や「それは違う、こうやろ」というご意見を頂けることをとても楽しみにしています。

SHARE
X
Facebook
Instagram