#28 アーティスト・作詞家 サエキけんぞうさん〈後編〉

“豊かな想像力を働かせて 未知の問題や分野にも恐れずに挑んで欲しい

徳島大学歯学部在学中にハルメンズでメジャーデビュー、卒業後は日本大学松戸歯学部に勤務しながらパール兄弟の活動を続けておられたサエキけんぞうさん。その後はアーティスト・作詞家として幅広くご活躍されています。来る11月27日(金)には、本学附属図書館ホールで開催の特別講演会にご登壇いただきます。大学時代の思い出、創作で大切にしていること、特別講演会について(前編)、私を変えた一冊、図書館の思い出、学生たちへのメッセージ(後編)などをお話しいただきました。

サエキけんぞう(さえき・けんぞう)

1980年 ハルメンズ「ハルメンズの近代体操」でデビュー。1986年 パール兄弟「未来はパール」で再デビュー。2003年 ソロ盤「スシ頭の男」でフランスデビュー。作詞家として、沢田研二、モーニング娘。、サディスティック・ミカ・バンド他多数に提供。著書「歯科医のロック」他多数。2012年著書 「ロックとメディア社会」ミュージックペンクラブ賞受賞。2023年に「はっぴいえんどの原像」出版。2025年11月にはゲストに小室哲哉を迎え、「ぼくらはここにいる」(パール兄弟)をリリース。2026年10月3日(土)パール兄弟LINE CUBE SHIBUYA(渋谷公会堂)でコンサート。毎週土曜日朝6時14分 NHK AMラジオ「サエキけんぞうの素晴らしき20世紀ポップ」放送中。


―“私を変えた一冊”とそのエピソードをお聞かせください。

高校生の時に読んだイギリスのSF作家アーサー・C・クラークの長編小説『地球幼年期の終わり』です。小学生の頃から筒井康隆さんや小松左京さん、星新一さんなどのSF作品を愛読していて、その延長線上で出会いました。生涯を通じて手塚治虫さんの漫画も含めたSF的な世界観から大きな影響を受けており、それは私の歌詞にも強く反映されています。『地球幼年期の終わり』は、人類の精神的な進化を描いた作品。全人類が〝集合意識〟の塊となって次の段階へ進み、死後の世界も含めて高次元の精神性に達するというストーリーは、ある種スピリチュアルであり、純文学にはないスケールの大きさでした。スタンリー・キューブリック監督作品になった有名な『2001年宇宙の旅』(アーサー・C・クラーク)とは、主題やモチーフに深い共通性と発展関係があります。宗教や哲学でも似た概念は語られますが、これほどポップで分かりやすく提示してくれたのはこの本が初めてで、すごく興奮したのを覚えています。無意識や集合意識というテーマは精神医学等でも扱われますが、まだまだ神秘的で未知の可能性が秘められています。どこかで客観性を担保しながらもSFの中に哲学的な視点を与え、私の意識を大きく変えてくれた刺激的な一冊です。

―図書館にまつわる思い出は?

日本大学松戸歯学部時代、診療の合間に休憩と気分転換を兼ねてよく図書館へ足を運んでいました。そこで出会ったのが「ニーチェ全集」。ニーチェは名前を知っている程度でしたが、全集の中の一冊『善悪の彼岸』という強烈なタイトルに強く惹かれ、思わず手を伸ばしました。ページをめくると、人生の指針になるような格言が三行から十行ほどの簡潔な言葉で綴られています。翻訳も素晴らしく、どこを読んでも面白い。「勝者だけの世界とは、実は勝利という価値そのものが失われた世界なのである」など、心に響いた言葉をノートに書き留めていました。新しい本との出会いがあり、個人では手に入れにくい専門書や学術書も気軽に読むことができる、図書館は知的な発見に満ちた場所だと思います。

パール兄弟のレコードデビュー40周年を記念して2026年8月~10月、3ヶ月連続でCDをリリース

―本校附属図書館ラーニングコモンズ「Koto Square」の印象は?

「Koto Square」を訪れ、思わず「自分も学生に戻りたい」「毎日でも通いたい」と思いました。もし実際に毎日通えるとしたら、本を読んだり、PCを使ったりして朝から晩までずっといるんじゃないでしょうか。物価高により、街での過ごしやすさが失われつつある現代において、こうした快適な空間で質の高い時間を過ごせるのは本当に有難いこと。というのも、今の時代、学生とアーティストの営みが以前よりもずっと近づいているように感じているんです。ITやAIの普及によって、幅広い情報へのアクセスが可能になり、学生であっても第一線の研究成果やデータベースへPCやスマホから簡単にアクセスできます。中には圧倒的な知識量を誇り、そうやって医療や研究の道へと進んでいく学生もいるでしょう。あるいは、音楽研究のような娯楽・文化領域であっても、非常に高いレベルで情報を収集したり、追究したりすることが可能です。その一方で、ものづくりに携わる者として、AIとどう共存し、活用していくかは大きな課題です。ここで重要なのは、AIをあくまで〝道具〟として位置づけ、その関係性を厳格に保ちながら取り扱うということ。今や、アーティストも、研究者も、学生も、同じ一つの営みに統合されつつあるように思えます。「Koto Square」のような空間を見ていると、前述の『地球幼年期の終わり』に描かれた「無意識の統合」というテーマが、いよいよ現実味を帯びた世界観として感じられます。

―未来を担う医療人をめざして学んでいる学生たちにメッセージをお願いします。

医療の道を志し、励んでいる医学生たちとの交流もあるのですが、昔よりも意識の自由度が高まっていると感じますね。それは、先ほどお話ししたように先端医療や専門的な知識に簡単にアクセスできる環境が整っていることが大きいと思います。私の身近にも医科大学の漢方研究会で学び、現在は病院で勤務している医療者がいます。大学時代も強い意欲を持って取り組んでいましたが、東洋医学にも西洋医学にもそれぞれの良さと限界があり、かつては領域を越えて学ぶことへの壁が高かったようにも思います。今の時代は知識の境界線が開放され、幅広い知識を吸収することができます。肩肘張らずに必要な知識へアクセスして、探求できる自由があります。だからこそ、一番大切にしてほしいのは想像力、思い描く力です。豊かな想像力を働かせてどんな問題にも、どんな未知の分野にも恐れずに挑んでいってください。

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