#5 感染制御・検査医学 / 貫井陽子先生のエッセイ
本の虫
私が本好きになったのは小学3年生の時でした。それまで親がそろえてくれた児童書には目もくれなかったのですが、当時担任だった先生が「帰りの会」で2時間ほどありがたいお話を毎日してくれる方で、その時間をどう有効活用しようか考えた結果、学校の図書館から司書の先生のおすすめの本を毎日借りて、帰りの会で読むのが日課になりました。担任に読書がばれそうになった時には、真面目な顔をして窓の外を眺めながら、お気に入りの「ズッコケ3人組」や「長くつ下のピッピ」の主人公になりきって、頭の中で新しいエピソードを作ることに没頭していた記憶があります。
そして時は流れ、中学校に入学すると仲の良い友人たちから色々とお気に入りの作家を紹介してもらいました。初めて村上春樹の「ノルウエイの森」に出会ったときの衝撃は今でも忘れられません。それまでの自分の世界観がひっくり返るような経験でした。また、中学校の現代国語の先生が大のミステリー好きで、いつも放課後になるとおすすめの本を紹介してくれるのです。私はその中でもアガサ・クリスティや島田荘司という作家にはまり、すべてのシリーズを読破しました。それだけでは飽き足らず、文化祭の演劇でアガサ・クリスティの短編を上映し、素人ながら無謀にも脚本に挑戦しました。イギリスの設定を日本にどう置き換えるかなど苦難の連続でしたが、クラスメートたちの素晴らしい演技力に助けられ、カーテンコールで観客の皆様から拍手を頂いた光景は今でも目に焼き付いています。「わたし」という人間がつくられていく過程で本からの影響はとても大きいものでした。
私が読書において、大切にしている習慣は周りの方から薦めて頂いた本は必ず読んでみるということです。自分で本を選ぶとどうしても自分の好きなジャンルに偏りがちになってしまうのですが、今まで全く読んだことがない作家と出会うことは読書において毎回新しい扉を開いてくれます。もし皆様のおすすめの作家さんがいらっしゃったらぜひ教えてください。最近はコロナなどで忙しく、読書に割く時間がとれないのが悩みです。いつの日かコロナが落ち着いたら、私のあこがれのランプの宿・青荷温泉(青森の秘湯で、携帯はつながりません…)に大量の本を持ち込んで、読書三昧したいと思っています。
最近は趣味と実益を兼ねて、感染症の歴史関連の本を読み漁っています。日本の穢れを忌避する文化が日本における感染症拡大を防止しているのではないかという説もあり、とても興味深いです。人類と感染症の闘いの歴史を振り返ることは、今後の新興・再興感染症対策にも有益な示唆を与えてくれます。また、「本の虫」はどうやら遺伝するようです。中学生の息子も小学校までは本嫌いで、国語の成績も・・・でしたが、中学に入ると本を読み漁るようになりました。今、息子からは松岡圭祐さんを薦められており、本は反抗期の息子との重要なコミュニケーションツールにもなっています。これからも本からしか得られない「栄養分」をしっかり摂取して、業務に活かしていきますので、どうぞよろしくお願いいたします。