#2 京都府立医科大学附属図書館の新たな機能付加にむけて
“静と動、二つの機能が充実する 新しい図書館をめざして”
広小路キャンパスのシンボルのひとつである京都府立医科大学附属図書館。医学系専門書を中心に、歴史的価値のある書籍や資料など約19万冊を所蔵し、学生・医療従事者など年間約2万8千人(2021年度)が利用しています。「広小路キャンパス活性化プロジェクト」では、図書館本来の役割を果たしつつ、新たな機能の付加をめざす企画が進行中です。プロジェクトリーダーである京都府立医科大学附属図書館の池谷博館長に、現在の展開、今後の構想などを聞きました。
京都府立医科大学附属図書館 館長
京都府立医科大学医学部教授
池谷 博(いけがや・ひろし)
1997年 宮崎医科大学医学部卒業.東京大学泌尿器科入局
2003年 東京大学医学部助手
2005年 警察庁科学警察研究所
2008年 京都府立医科大学医学部教授
現在に至る
―リーダーとしてプロジェクトに込める思いは?
これまでの図書館は、静かに本を読んだり、勉強したりする場所でしたが、インターネットの普及により、劇的にその役割が変化しました。それに裏打ちされるように来館者が激減しています。16年前(2008年)と比較すると来館者は約1/3、逆にオンラインの電子ジャーナルのアクセス数は約3倍に増加しています。従来の建物としての図書館の役割だけでは、これからの時代には通用しません。当図書館には司書や職員など10名以上が勤務しています。公立大学も法人化していますので、経営的にも変革に迫られ、雇用継続には職員の方の業務拡大や意識改革が必要だと考えていました。私は、法医学教室での指導も担当しています。法医学教室では、通常は基礎研究をしており診療や治療には関わりませんが、コロナ禍にコロナ病棟支援を行ったことで、大学にとって必要な存在だと改めて認識されました。同じように「図書館が無くなると困る、図書館に従事する人たちも大学にとって必須」と実感してもらいたい。そのためには図書館本来の役割を果たしながら、新たな機能や魅力を創造しなければなりません。図書館を中心とした広小路キャンパス全体の活性化、さらには大学全体の活性化へと繋がることをめざしプロジェクトを発足しました。
―新しい機能や魅力、これからめざす図書館とは?
今回のプロジェクト推進にあたり、近隣大学の図書館を視察しました。建物や設備が綺麗である、24時間利用可能、寝転がって本が読める、漫画も読める、図書館内に寿司屋があるなど、「学生のためにこういう図書館の在り方もあるんだ」と、とても刺激になりました。新しい機能として、まずはラーニングコモンズの設置を進めています。学生たちが集い、意見交換したり、小規模なセミナーを開催したり、イベントスペースとしても活用できる。そんな多目的空間を作ることで図書館の概念を変えたいと思っています。一人で静かに本を読むことも、ラーニングコモンズでアクティブに過ごすこともできる、静と動の空間を設けることによって、もっとリラックスして、みなさんが訪れたいと思える図書館へ変貌させたいですね。医学系の図書館というのは、一般の方には敷居が高いかもしれません。地元の方にも気軽にお越しいただけるようにコーヒーを飲みながら読書できるカフェの併設も検討しています。一方で、当図書館は1890年(明治23年)開設という歴史があり、出典不明とされていた芥川龍之介の小説が掲載された医学雑誌見つかるなど、貴重な図書が多数保管されています。こうした図書や資料を次世代に継承することも大切な使命です。時代が変わっても図書を保管するスペースの役割、建物としての図書館の必要性は変わることはないでしょう。脈々と受け継がれてきた図書館の使命は維持しつつ、アクティブな図書館としての新しい機能を充実させていくこと。それが図書館としての社会貢献にもなりますし、職員にとってもやりがいに繋がるはずです。
―プロジェクトの現在の進行状況は?
学生たちがくつろぎ、勉学に励める環境の整備、それに関わる資金の確保もプロジェクトの 重要なミッションです。2023年(令和5年)8月に電動マイクロモビリティのシェアリングサービスのポートを広小路キャンパス内に設置しました。河原町・広小路キャンパスと下鴨キャンパスの移動に、多くの学生や教員が活用しています。また、ポート設置のスペース提供により1ポート1か月1000円の収入があり、10台の設置で年間10万円の自主財源にもなっています。12月からは河原町・広小路キャンパスに日替わりでキッチンカ―を導入。学生や職員、病院来訪者、近隣の方などランチタイムの利用、出店希望とも順調です。こちらも出店料が収入源になっています。そして「キッチンカ―でランチを買っても、ゆっくり食べる場所がない」という学生からの要望もあり、広小路キャンパスに屋外テーブルとベンチを設置しました。このほかには、看護学舎の廊下の照明をすべてLED化、学舎内の雰囲気が明るくなり、節電効果も出ています。2024年度からはこれまで紙のカードだった学生証をICカード化します。授業の出席管理システムが構築され、図書館にも入館できるようになります。図書館はスマホでの入館システムも導入しており、ICカード、スマホどちらでも可能です。
―今後の新しいプロジェクトの構想は?
まだアイデア段階ではありますが、図書館2階のホールを広く一般の方々に貸し出しすることはできないかと。府民のみなさんに文化芸術活動など多目的に利用いただき、その使用料を財源にできればと考えています。客席は300席、音響・照明などの機材も揃っています。そして夜間は府立医科大学病院の駐車場の利用が少ないので、例えば夜の公演なら、来場者の駐車場も確保できます。図書館ホールと駐車場の有効活用は、地域の方々と大学を結ぶ機会になり、広小路キャンパス活性化の起爆剤になるかもしれません。実現に向けてはまだまだ検討や調整が必要ですが、構想の一つとして模索しているところです。
―「広小路キャンパス活性化プロジェクト」を応援、ご支援くださる方へメッセージを。
現在、クラウドファンディングのスケジュールや詳細を検討しています。決定次第発表いたしますので、ご支援のほど宜しくお願い申し上げます。リワード(返礼品)は京都府立医科大学ならではのもの、無料健康診断、1回30分健康相談などの医療系サービス、先ほどお話しした図書館ホールの利用割引も考えています。あるいは府立医科大学や図書館の歴史的価値のあるものを特別公開するというアイデアもあります。例えば、病院のマークとして十字を日本で初めて使ったのは府立医大で、証拠の品であるランプが所蔵されています。河原町キャンパスの大学本部は1929年(昭和4年)竣工のヨーロッパ中世のゴシック様式、現存する貴重な近代建築です。また戊辰戦争の鳥羽伏見の戦いがきっかけで、漢方医がたくさんいた京都に西洋医学の大学が創設された歴史にまつわるストーリーの特別講演なども他にはないリワードになるのではないかと思案しています。ご支援くださるみなさまに価値を感じていただける内容を鋭意検討中ですので「こういうものがあればいいな」というご意見・ご要望があればぜひお聞かせいただければ幸いです。