#10 作家・コラムニスト 泉麻人さん〈後編〉

“見て、聞いて、感じたことを そのままに実話として記録しておきたい”

東京の文化や歴史、近過去のレトロ、サブカルチャー、街歩きなど独自の視点で多彩な分野のコラムやエッセイ、小説など執筆するほか、テレビのコメンテーターや司会も務めるなど幅広くご活躍の泉麻人さん。趣味の路線バスで出会った食や人や町並みの魅力を語る講演会も行っておられます。書くことの原点、好きな本について<前編>、執筆のアイデアの源、自称・東京オタクという泉さんが感じる京都の魅力<後編>などをお話しいただきました。


作家・コラムニスト 泉麻人(いずみ・あさと)

1956年東京生まれ。慶応義塾大学商学部卒業後、東京ニュース通信社に入社。「週刊TVガイド」「ビデオコレクション」の編集者を経てフリーに。東京や昭和、サブカルチャー、街歩き、バス旅などをテーマにしたエッセイを多数発表。著書に『銀ぶら百年』(文藝春秋)、『泉麻人自選 黄金の1980年代コラム』『1964 前の東京オリンピックのころを回想してみた。』(以上、三賢社)『大東京 のらりくらりバス遊覧』(東京新聞)『夏の迷い子』(中央公論新社)、『冗談音楽の怪人・三木鶏郎』(新潮選書)、『東京23区外さんぽ』『東京ふつうの喫茶店』『東京いつもの喫茶店』『箱根駅伝を歩く』『昭和50年代東京日記』(以上、平凡社)など。


ー東京、レトロ、サブカルチャー、街歩き、バス旅など、さまざまな分野のご執筆をされていますが、アイデアの源として意識していることは?

私が書くのは、読者の方に喜んでいただきたいというのもありますが、私的な日記と同じように、自分が見て聞いて感じたことを、そのままに実話として記録しておきたいという思いが大きいんです。だから、地方でバス旅をする時なども、「人とのふれあいを楽しみにしています」とかいうのはなんだか嘘くさく感じるんです。「たまたま」がいいんです。だからお店に入っていって話を聞くというようなことはしません。本当にたまたま、バス停のベンチで隣合って、話しかけられたみたいな自然の出会いを大切にしています。旅の時は、一人だと「自分」対「景色」とか、人間観察みたいなことをやっています。誰かといっしょの旅もいいですが、そうすると雑談して景色はあまり見なくなる。一人で「自分」対「その地方の風土」をじっくり楽しむのが好きです。必ずではないですが、旅行の際に、その地方の図書館をふらっと訪れることもあります。「この地名の由来なんだろう」と調べてみたり、東京の大きな書店でも見つからないような貴重な郷土史があったり、それも旅の楽しみのひとつです。

ー東京生まれ、東京育ち、自他ともに認める「東京オタク」である泉さんから見た京都の魅力は?

京都は便利で、美味しい食べ物もたくさんあって、京都の中心地みたいな場所からすぐ向こうに緑美しい山が見えるでしょう。京都に初めて行った時に、自然との距離感が近いことに感動しました。僕は昆虫が好きなんですけど、バスで鴨川沿いを通過する時に、バスの窓からハグロトンボが車内に入ってきたことがありました。ハグロトンボは水が綺麗じゃないと棲息できないんです。東京ではなかなか見ることもできないから、それがバスに入って来るなんて驚きました。京都は市街地から山も川も近く、街のあちこちに点在するお寺に庭がある、市内の中心に緑豊かな御所もあり、自然が保存される環境に恵まれていますね。それから、京都には古い木造の家などが東京よりもたくさん残っていて、懐かしい叙情を感じます。京都に行くと、出町柳から鴨川の上流地域へ向かう路線バスによく乗ります。鴨川の源流であり、歌舞伎十八番『鳴神』の舞台としても名高い洛北雲ケ畑・岩屋橋が終点の路線バスが好きだったのですが、残念ながら廃線になったそうです。
※現在は雲ケ畑自治振興会が運営する北大路駅前~雲ケ畑岩屋橋「雲ケ畑バス~もくもく号~」(ジャンボタクシー)が運行

ー未来の医療人をめざして、京都府立医科大学で学ぶ学生たちにメッセージをお願いします。

医学の知識や経験を深めるのはもちろん第一ですが、それ以外の雑学、文化、文学などの知識も豊富なお医者さんや看護師さんになって欲しいですね。病気やケガで長期入院している時は気持ちも落ち込みますから、いっしょに楽しい雑談ができるお医者さんや看護師さんが身近にいるとほっとする、リラックスできますよね。ちょっとした話をしている時に、患者さんの好きな映画の話や文化的な話題などができるときっと喜ばれるでしょう。医療の勉強も大変だと思いますが、いろんなことに興味をもち視野を広げて、心身ともに患者さんをサポートできるといいですね。

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