医学の基礎が綴られている 海外から届いた貴重な古典医学書

京都府立医科大学附属図書館の貴重書庫には、大学創立以来150年以上の歩みの中で培われた歴史的価値のある書籍が保存されています。図書館所蔵の貴重資料から、医学の基礎をまとめた海外の古典医学書であり、今なお医学のバイブルとして読み継がれている書籍をご紹介します。

『虞列伊氏解剖訓蒙図』

ヒポクラテス『病気の診断について』とセーデンハム『簡約疾病治療法』の合冊

ヒポクラテスは紀元前5世紀にエーゲ海のコス島に生まれた古代ギリシャの医者。それまでの呪術的な医療とは異なり、健康や病気は人体と自然環境の相互作用による自然現象と考え、科学に基づく医学の基礎を作ったことから「医学の父」と呼ばれています。『病気の診断について』は、ヒポクラテスの弟子たちによって編纂された『ヒポクラテス全集』に含まれており、H.ボイセンがオランダ語に訳して1743年にアムステルダムで刊行されました。H.ボイセンは、「イギリスのヒポクラテス」と称される英国医師トマス・シデナムにならい、オランダでのヒポクラテス医学の復興をはかりました。本書はヒポクラテスの『病気の診断について』と、トマス・シデナムの著書『簡約疾病治療法』(1746年刊)を合冊したものであり、表紙には「拾二番 セーデンハム 完」と墨書した小紙片があります。「セーデンハム」は著者名Sydenhamのオランダ語式発音です。江戸時代の舶載本で、蘭学医たちが診断の際に参照していたのではないかと思われます。明治32年(1899年)に京都の医師・漢学者、木村得善が京都医学図書館に寄贈しました。表紙の損傷などはあるものの、良好な状態で現存している約280年前の貴重な書籍です。

「拾二番 セーデンハム 完」と墨書された表紙
ヒポクラテス『病気の診断について』とセーデンハム『簡約疾病治療法』の合冊

解剖学の源流『グレイ解剖学』の和訳本『虞列伊氏解剖訓蒙図』

イギリスの解剖学者で外科医のヘンリー・グレイが執筆した解剖学の源流『グレイ解剖学』。1858年に初版が刊行されて以来、160年以上にわたり、版を重ね、現在も人体解剖学の標準的な教科書として用いられています。1827年ロンドンに生まれたグレイはセント・ジョージ病院付属の医学校に入学し、外科医を目指して意欲的に知識と技術を身につけました。1851年に同病院の住み込み外科医に任命され、翌年、25歳のときに王立協会フェローに選出。1854年に『脾臓の構造と機能』を出版したのち、31歳のときに750ページに363の図を掲載した、全身を系統立てて網羅する先進的な解剖学の本『グレイ解剖学』を世に送り出しました。写真が一般的ではなかった時代、観察所見を客観的に提示するためには絵を描くしかなく、4歳年下の優秀な医学生ヘンリー・ヴァンダイク・カーターの作画によって完成させることができました。詳細で正確な解剖図、解剖の手順や重要語が簡潔にまとめられています。ロンドンでの初版から15年後の明治5年(1872年)、『グレイ解剖学』第5版を日本語に翻訳した和訳本『虞列伊氏解剖訓蒙図(ぐれいしかいぼうくんもうず)』が刊行されました。1巻(乾)は骨や筋肉、2巻(坤)は血管や神経、内臓、感覚器等の解剖図が収録されています。

参考:ルース・リチャードソン著,矢野真千子訳『グレイ解剖学の誕生:二人のヘンリーの1858年』東洋書林(2010)

『虞列伊氏解剖訓蒙図』「乾」「坤」の2巻
詳細で正確な人体解剖図

※貴重図書の閲覧には所定の手続きが必要となります。
 詳しくは京都府立医科大学附属図書館までお問い合わせください。

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