#11 内分泌・乳腺外科学 / 直居靖人先生の教員エッセイ

稲盛和夫『経営12カ条』(日本経済新聞出版)を読んで

本書は今年8月(2022年 ※編集注)に亡くなられた京セラ会長 稲盛和夫氏の最後の著書である。今年から新たに教室を運営させて頂く事になり、自分も氏のリーダー論を学びたいと考えて本書を手に取った。

私が稲盛氏の名前を最初にお聞きしたのは11歳の時である。当時、成基学園伏見校で理科を担当されたS先生が「セラミックとは狭義には陶磁器を指すが、誘電性・磁性等で独自の機能をもつことが判明し、今後は医療機器、電子部品に多く利用されていく。京都で伸びる会社だから覚えておきなさい。」と力説されていた事を思い出す。創業当時から目の付け所が素晴らしかったのだ。
その後、京セラはドイツの高級カメラメーカーCONTAXを吸収し、Carl Zeissのレンズが使えるメーカーとしても存在感を発揮した。自分もRTSⅢ,159MM,167MT,S2,RX,Ariaと次々に京セラ・CONTAX Bodyを仕入れては、伏見区竹田の京セラ本社ビルにいそいそと整備に通ったことを思い出す。豊穣な描写は唯一無二であり、趣味の世界でも大いに楽しませてもらった。CONTAX body & Carl Zeiss lens & Fuji film Velviaは、写真家 蜷川実花氏が好む組み合わせと聞けば、その深く鮮やかな色合いも想像できるに違いない。
さて稲盛氏は1932年、鹿児島市に7人兄弟の次男として生まれ、鹿児島県立大学にて有機化学を専攻した。
1955年に松風工業に入社し4年後に退社して京都セラミックを創業。
1984年に第二電電(現KDDI)を設立。
2010年には日本航空会長に就任し同社の再建に尽力した。
このように氏は言わずと知れた一時代を築いた大経営者である。「これさえ守れば、会社や事業は必ずうまくいく」と本の帯にある。本書は企業経営者向けに氏が主宰した「盛和塾」の講話をまとめたもので、わかりやすい内容になっている。
12カ条をみてみよう。
1 事業の目的、意義を明確にする 公明正大で大義名分のある高い目的を立てる
2 具体的な目標を立てる 立てた目標は常に社員と共有する
3 強烈な願望を心に抱く 潜在意識に透徹するほどの強く持続した願望を持つこと
4 誰にも負けない努力をする 地味な仕事を一歩一歩堅実に、弛まぬ努力を続ける
5 売上を最大限に伸ばし、経費を最小限に抑える
6 値決めは経営 値決めはトップの仕事。お客様も喜び、自分も儲かるポイントは一点
7 経営は強い意志で決まる 経営には岩をもうがつ強い意志が必要
8 燃える闘魂 経営にはいかなる格闘技にもまさる激しい闘争心が必要
9 勇気をもって事に当たる 卑怯な振る舞いがあってはならない
10 常に創造的な仕事をする
11 思いやりの心で誠実に
12 常に明るく前向きに、夢と希望を抱いて素直な心

特に感銘を受けた箇所を太字にした。1-4は山中伸弥先生の座右の銘「Visionand Work hard」に通じる内容だと思う。我々も目標を明確に掲げて仲間と共有して、叶うことを強く願いながら、日々努力を重ねなくてはならない。当科の具体的な目標は「地域から紹介状が来る第一線級の臨床医になること」「遺伝子解析、ラマン分光分析、質量分析などの基礎研究で成果を出すこと」である。
7,8については「大学・関連施設を安全に運営する」という強い意志、及びライバルとなる外国の遺伝子研究に対する激しい闘争心を持ち続ける必要があろう。その過程では常に10創造的な仕事ができているかを振り返らなくてはならない。
11そして患者さんや医局員・同門会の皆様や、コメディカル・事務職の皆様に対して、常に思いやりの心で誠実に向き合い、12私自身が明るく前向きに、夢と希望を語れるようにしなくてはならない。氏は「権謀術数は一切不要」と言う。12素直な心が最も大切なのであろう。

稲盛氏はKDDI(第二電電)を設立する際には「動機善なりや、私心なかりしか」と長期間自問したという。社会の木鐸たる経営者は私心無く動機も善でなければならないという戒めである。リーダーシップ初学者にとって学ぶことの多い書であった。

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